全微分
前回は1変数関数の微分に関する記事を書きました。今回は2変数以上の関数の微分である全微分(total differential)について書きます。
全微分は、「各独立変数が微小量変換した際の従属変数の変化分」を表したものです。
全微分は多変数関数の近似値の導出であったり、合成関数の導関数を導出する際に役立つなあと感じます。
定義
2変数関数を例に考える。
関数の全微分は以下のように定義される。 $$ dz = f_x(x,y)dx + f_y(x,y)dy $$ ただし、独立変数, の微分, は、任意の増分, とする。すなわち、 $$ dx = \Delta x, dy= \Delta y $$ である。
多変数関数 の場合も同様に以下のように定義される。 $$ dz = f_{x_1}dx_1 + f_{x_2}dx_2 + \cdots + f_{x_n}dx_n $$
全微分 と全増分 の違い
独立変数の変化分が十分に小さい場合、全微分は全増分の良い近似値を与えます。
大学時代は、全微分と全増分の違いについてピンときていなかったのですが、参考文献に分かりやすい例があったので紹介します。
[例] 関数の全微分と全増分の差
定義式より、 $$ \begin{align} dz &= f_xdx + f_ydy \\ &= ydx + xdy \end{align} $$
一方、との増分をそれぞれ、 $$ \Delta x = dx, \Delta y = dy $$
とすると、全増分は、 $$ \begin{align} \Delta z &= (x + \Delta x)(y + \Delta y) - xy \\ &= x\Delta y + y \Delta x + \Delta x \Delta x \\ &= xdy + ydx + dxdy \end{align} $$
となる。したがって、全増分と全微分の違いは、 $$ \Delta x \Delta y = dxdy $$
である。下図に全微分と全増分の違いを示します。
, が十分に小さいと、上式の左辺は0に近づくので、 となります。すなわち、全微分は全増分の良い近似値を与えます。下図でも、, が小さくなってくると、 やに比べ の範囲がかなり小さくなってくることがイメージできます。
全微分の定義式の導出
理解を深めるため全微分の定義式の導出の流れを記します。2変数関数の場合です。
xの増分を, yの増分を に 対する全増分をとする。すなわち、 $$ \Delta z = f(x+\Delta x, y+\Delta y)-f(x,y) $$
と表される。上式を変形する。 $$ \Delta z = { f(x+\Delta x, y+\Delta y) - f(x,y+\Delta y) }+ { f(x,y+\Delta y) - f(x,y) } $$
平均値の定理より、 $$ \begin{align} \Delta z = f_x(x+\theta_1 \Delta x, y+\Delta y)\Delta x + f_y(x, y+\theta_2 \Delta y)\Delta y \tag{1} \end{align} $$
となる。ただし、定数, は以下をみたす。 $$ 0 < \theta_1 < 1, 0 < \theta_2 < 1 $$
偏導関数 , が連続であれば、 $$ \lim_{\substack{\Delta x \to 0 \\ \Delta y \to 0}}\epsilon_1 = 0, \lim_{\substack{\Delta x \to 0 \\ \Delta y \to 0}}\epsilon_2 = 0 $$
をみたす変数 , を用いると、 $$ \begin{align} f_x(x+\theta_1\Delta x, y+\Delta y) &= f_x(x,y) + \epsilon_1 \tag{2} \\ f_y(x, y+\theta_2 \Delta y) &= f_y(x,y) + \epsilon_2 \tag{3} \end{align} $$
となる。したがって、 とが十分小さければ、式1~3より、 $$ \Delta z = f_x(x,y)\Delta x + f_y(x,y)\Delta y + (\epsilon_1\Delta x+ \epsilon_2 \Delta y) $$
極限をとると、全微分が導出される。 $$ \begin{align} dz &= \lim_{\substack{\Delta x \to 0 \\ \Delta y \to 0}}\Delta z \\ &= f_x(x,y)dx + f_y(x,y)dy \end{align} $$
参考文献
- 作者: 和達三樹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1988/11/08
- メディア: 単行本
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基本的にこの本を見て勉強しています。全般的に丁寧に説明されており分かりやすいです。